『本日もただいま!逆鱗日和』のイベントパンフレットに書き下ろしたショートショート
我らが『モンスターハンター』が15周年を迎えたことを記念し、今週は“我が青春のモンハン”と題して(?)、懐かしい写真やテキストを公開していこうとさっき決めました。
本日お見せするのは、ちょっと長いテキストです。
2010年に発売された5冊目の『逆鱗日和』、『本日もただいま!逆鱗日和』の発売記念イベントで配ったパンフレットに書き下ろした、“『モンハン』ショートショート”を公開しちゃいます。
これを読んだことがあるのって、イベントに来てくれた200~300人くらいだけだと思うので、ほぼほぼ初公開となります。ショートショートとは言え若干長いですけど、自分でも読んでもおもしろいので(笑)、がんばって最後まで目を通してみてください!
モンハンショートショート(1):バカには見えない肉
ある日、ギルドのオヤジが「緊急通告がある!」と言って、酒場にたくさんのハンターを集めた。なんと、王様から勅命があると言うのだ。ギルドのオヤジは、急いで駆け付けたハンターたちをねめつけながら震える手で王室からの書簡を取り出し、「ワ、ワシもまだ読んでいないんじゃ……」とブツブツつぶやきながらそこに書かれている内容を一気に読み上げた。
「なになに……? “ハンターたちに告ぐ。王様が世にも珍しい食い物をご所望だ。いますぐ変わった食べ物を持ってこい。もっとも珍しいものを持ってきたハンターの願いは、なんでも叶えよう”とあるぞ。こいつはすごい! チャンスだ! 王様の御眼鏡にかなったハンターを輩出したとあれば、このギルドの評判も上がるに違いない! おいお前ら、いつもよくしてやってるんだから、いまからフィールドにくり出して珍しい食い物を採取してきやがれ!」
てなことで、“世にも珍しい食べ物コンテスト”が始まった。
しかしこれ、マジメに飛竜の卵や黄金魚あたりを持っていったところで門前払いを喰らうのは目に見えている。もうちょっとトンチを効かせて、本当に見たことも聞いたこともないものを持って行くしかない。
俺は、部屋にぶら下がっていたズタ袋をひとつ手に取り、それだけを持って家を出た。目指すは王宮。この袋があれば、今回のコンテストで優勝できるのは間違いないのだ。
余裕の体でのんびりと王宮の前まで行くと、そこには長大なハンターの行列ができていた。皆、薄気味の悪いタマゴを抱えたり、血の滴るモンスターの肉をぶら下げていたりする。しかしそんな食い物、クエストに行きさえすれば手に入るものだ。少なくとも“世にも珍しいもの”ではない。実際、そういったハンターは近衛兵どものチェックでことごとくハネられ、トボトボと帰途についている。でも、俺は大丈夫だ。この袋さえあればな。
ニヤニヤと笑いながら前に進んでいくと、思った通りひとりの近衛兵が俺に話し掛けてきた。討伐隊正式銃槍と思われるガンランスを重そうに引きずりながら、近衛兵は詰問口調でこう言った。
「王様への献上品は、ここで一度チェックすることになっている。オマエは何を持ってきたのだ? その袋を開けて見せてみろ」
俺は、袋を取り上げようとする近衛兵の手を華麗に受け流し、代わりに耳元に口を寄せてヒソヒソと袋の中身を告げた。「この袋の中にはね……!」。
俺のセリフを聞いた近衛兵、ボカンと1発虚空に向かってガンランスの砲撃をぶっ放し、大声で「そそそそそれはスゴイ!! いますぐ王様のもとへ!! きっとお喜びになられるぞ!!」とわめき散らした。どうやらガンランスの砲撃は、仲間への信号を送るときに使うものらしい。
そして俺は長い行列をすっ飛ばして、本当にすぐに、王様との謁見室に通された。やはり俺が持ってきたもののインパクトは絶大だったようだ。
まもなく、たくさんの家来を引き連れた王様が部屋に入ってきた。バサルモスのようにブクブクに太り、フルフルのように汚らしくヨダレをたらしている。いかにも、このショートショートのためだけに作られた下卑た王様像をそのまま形にしたような男だ。まあそんなことはどうでもいいや。俺はうやうやしく頭を下げながら王様に近づき、わざと小さな声で「この袋の中に、例のブツが入っております」ともったいつけて言った。すると王様は「うんうん!」と激しく頷き、「ははは、早く食わせてくれ! オオナズチの肉とやらを!!」と身もだえしながらのたまった。
そう、俺はオオナズチの肉を持ってきたのだ。
しかし、いかに珍しい古龍の肉とは言っても、それだけでいきなり王様にお目通りが叶うような特別扱いをされるわけもない。そう、俺はあのとき、近衛兵に詰め寄られたときにこうささやいたのだ。
「オオナズチの、透明な肉を持ってきましたよ」
と……。この“透明”という単語は効果テキメンで、いま俺はこうして王様の前に立っていられるというわけだ。
とは言っても、オオナズチの肉が本当に透明なのかどうかなんて俺は知らない。フィールドで出会ったことなんてもちろんないし、そもそも古龍自体がホントにいるのかどうかもわからないくらいレアな存在なんだから、知らなくても仕方がないのだ。でも、オオナズチが完全に透明になって姿を消すことができる……という話は、有名な伝説のひとつとして教科書にも載っているので、俺はこれを利用しようと考えた。“透明な肉を王様に喰わせてやればいいんだ!”と。
俺は、持参した袋を王様の前に設えられたテーブルの上に置き、しずしずとその口を開けた。そして中から透明な肉を取り出して王様の前にそっと置き、ニヤリと笑ってからこう言った。
「こちらが、オオナズチの透明な肉でございます。誤って透明になった瞬間に仕留めてしまったため、こんな状態になってしまいました」
俺の会心のセリフを聞いた王様、最初は意味がわからずにポカンとしていたがすぐに正気に戻り、ぜい肉でつぶれた喉からかすれ声を搾り出した。
「こ、ここにオオナズチの肉が……? いやあの、ワ、ワシには何も見え……」
しかし王様、そこまで言いかけて慌てて言葉を飲み込み、冷や汗と脂汗がないまぜになった体液をダラダラと顔から流しながら、恐る恐るこんなことを言った。
「……も、もしかしてこの肉は、バババ、バカには見えないとかいうアレではないだろうな……??」
俺、我が意を得たりとばかりにバチンと指を鳴らし、ピョンピョンとその場で飛び跳ねながら王様に叫んだ。
「そう!! まさにソレですよ王様!! この透明な肉は、バカには見えないんです! いやあ、さすが王様。まことに失礼な言い方ながら、じつに聡明であらせられる! そこまでおわかりになるなら心配ないですな! この、血が滴る新鮮なオオナズチの肉が、王様にはアリアリと見えていらっしゃることでしょう!!」
すると王様、油を搾り出されるガマガエルのような観念した表情を作り、まわりにたくさんの家来がいることもあってか俺のテキトー発言に乗ってきた。
「う、うむ!! 見えるぞオオナズチの新鮮な肉が!! ちちち、血が滴っておるわい!! いやあ、こいつはじつにうまそうだ。おい、料理長を呼べ! この場ですぐに、オオナズチのステーキを作らせるのじゃ!!」
そしてやってきた料理長。あるはずのない透明肉を突き付けられて目を白黒させ、トドメとばかりに王様に「バカには見えんぞ」と言われてひっくり返る。しかしすぐに立ち上がって、「いやあ見事な肉ですな! 驚きのあまりひっくり返ってしまいましたわい。さっそくこいつで、ステーキを作りましょう!」とこの茶番に同調。コンロに火をつけてフライパンを熱し、「よっこいしょ……。こいつは重い肉だ……」とかなんとか必死のパントマイムを行いながら透明肉をフライパンに乗せた。
「じゅーじゅー。霜降り肉なので脂が出ますなあ。じゅーじゅー」
自分の口でじゅーじゅーと効果音を発し、赤ワインやら塩コショウやらを何もないフライパンにバラバラと振りかける料理長。なにが霜降りだ。なにもないだろうが。しかし料理長は「焼けましたぞ!」と絶叫してトングをフライパンに突き立て、「ミディアムレアにしておきました」ともっともらしいことを言いながら肉を皿に盛る仕草をした。これで、料理長の出番は終了だ。そのあまりの熱演ぶりに、俺は涙が出そうになった。
そして俺は王様に「いっしょにこの珍しい肉を食べようや」と晩餐に誘われ、断るのもおかしいので料理長の演技に負けるものかと、何もない空間でナイフとフォークを振り回した。こんなアホなことでも、続けていれば本気になってきてしまうから不思議だ。
「くちゃくちゃ……。うまいですなあ、オオナズチの肉は……。獲ってきた甲斐がありました。くちゃくちゃくちゃ……」
「くちゃくちゃ……。ホントにうまいのう、この肉は! いやあ、いいものを持ってきてくれたわい。……ホレ、家来ども! まだまだ肉は余っておるから、皆も食え! 食え食え食え!!」
そして宮廷では、ときならぬ一大パントマイム大会が始まった。
『モンスターハンターライズ』プレイ日記 逆鱗ぶいっ! Vジャンプレイにて連載中!