【モンハンワールド】逆鱗日和 第43回:狩人たちの夏
「夏が、終わった……」
汗がしたたる手からコントローラーを放した瞬間、僕はそうひとりごちた。7月15日という、まだ夏が始まりもしていない時期のことなので“終わった”もないもんだが、全身からスルスルと抜けていく緊張とストレスをリアルに感じたら、人は誰しも、
「夏が終わった」
と思うようにプログラミングされているのである。負の雰囲気が消えて空洞になった僕の心に、“満足”、“虚脱”、“寂寥”、“悔恨”といった、喜怒哀楽ないまぜになったさまざまな感情が押し寄せてくる。
「本当に、終わったな……」
今度はしっかりと、まわりに聞こえるように声に出してつぶやく。すぐに、横にいた相方が僕の言に反応してくれた。
「終わったねー! まあ、よかったよ! そして、楽しかった!」
同僚のTさんである。その顔が、疲れ3割、悔しさ3割、満足4割……という割合の表情に見えたのは、決して僕の希望的解釈ではあるまい。僕たちは、充実していた。自分たちなりの結果が残せたから。
僕とTさんは約4ヵ月の長きにわたり、『モンスターハンター:ワールド』の最速ハンターを決める大会“狩王決定戦”の予選を突破するために練習に励んでいた。このコンビで狩王決定戦に参加するのは、4回目。参加するたびに順位を上げてきたことに加え、今回は過去最高に仕上がったという自負もあって、「いまだったら、10位以内に入れる!」と、鼻を膨らませて札幌大会に参戦したのである。
しかしそこで、まんまと僕があり得ないミス……。
闘技場に入ったらすぐに、僕が眠り投げナイフをモンスターに当てて眠らせ、そこから作戦を畳み掛ける……というプランだったのに、なんとナイフが大ハズレ(苦笑)。眠らずに暴れるモンスターを見て僕とTさんは肝を潰し、
「なな、なんで起きてんの!?」
「ねね、ねんねんころり~!」
なんてパニックになって、練習の成果を1ミリも出せないまま終戦してしまったのである。
僕は、堕ちた。天界から堕ちた天使が堕天使となり、1週回って天使に戻るくらい堕ちまくった。
「この努力が結実しないと、もう立ち直れないかもしれない……」
そんな、堕天使な僕に朗報となったのが、7月15日に幕張メッセで開催された全国大会“狩猟感謝祭”の当日予選の場だった。いわば敗者復活戦のコレに参加し、納得のタイムを出して“競技のモンハン”を終えたい。相方のTさんに相談すると、「キミ、ドンヨリしすぎて面倒臭かったので、そこで払拭してくれ! 参加するしかないっしょ!」とのことで、すんなりとゴーサインが出た。僕に、最後のチャンスがやってきたのだ。
狩猟感謝祭の会場に入ると、さっそく『モンハン:ワールド』の開発陣と顔を合わせた。十年来の友であるエグゼクティブディレクターの藤岡要さんが、ニヤニヤしながら僕とTさんに言った。
「あ、大塚さん! また出るんですか(笑)。懲りないですね~! Tさん、どうせこの人(僕のこと)、またいいところでコケるから、つぎからは別の人と組んだほうがいいですよ(笑)」
ディレクターの徳田優也さんが、人懐っこい笑顔で「うんうんw」と同意している。失礼な! 俺たちはこのチームで、キチっと結果を残してきますよ! ……と、震える声と手で開発陣を制し、僕たちは予選参加者の列に並んだ。さあ、いよいよだ!
クエストに入る前、Tさんが僕にこんなことを言った。
「順位はどうでもいいよ。最悪、キミがトラウマになっているナイフさえ当ててくれれば、それで満足だからさ(笑)」
緊張で全身から汗を噴き出させながら、僕も返した。
「ナイフが当たれば、あとの流れは身体が覚えているはず……。絶対に、結果を残そう!」
そして--。
僕らのチーム“こっそり逆鱗日和”は、59秒36のタイムで、106チーム中19位という結果に終わった。練習の最速タイムが54秒03で、平均だと56秒くらいだったから、どうにかギリギリ及第点……ってところだろうか。
でも、僕らは晴れやかだった。
目標だった10位以内こそ実現しなかったが、眠り投げナイフが無事に当たり、ほぼ完璧に作戦通りの立ち回りができたから。4ヵ月の努力は、無駄じゃなかった!
そんな、大会後。前出の藤岡さんが、愉快そうに笑った。
「大塚さん、ずっとタイムアタックばかりやって、ゲーム本編がほったらかしでしょ! 大会が終わったんだから、これから本腰を入れてユルく遊んでください。もともとそれが、角満スタイルなんですから(笑)」
はい、わかりました。これでようやく、のんびりと世界観を堪能できますよ。それにしても……素敵な4ヵ月だったなー!
(週刊ファミ通:巻末コラムより)
『モンスターハンターライズ』プレイ日記 逆鱗ぶいっ! Vジャンプレイにて連載中!