『パズル&ドラゴンズ』の山本大介プロデューサーが手がける新作アプリとして、2018年4月にリリースされた対戦型カードゲーム『クロノマギア』。先日、このアプリのサービスが2020年11月30日に終了する旨が発表された。
これを受け急遽、山本プロデューサーと、“熱血パズドラ部”の著者であり、パズドラのストーリーダンジョンのシナリオを担当する大塚角満の対談形式のインタビューが実現。前編として、その一部を公開した。
2回目の今回はさらに突っ込み、『クロマギ』がもたらしてくれた成果と、今後の展望なども語ってもらっている。
すべての『クロマギ』ユーザーと『パズドラ』ファンに向けた、渾身の対談!!
あの遊園地との関係
大塚 振り返ると……『クロノマギア』は、どれくらいの時間をかけて作ったんでしたっけ?
山本 何年だろう……当初は二転三転して、ゲームジャンルすら変わったりしていたんですけど、リリースまで……2年半くらいかかったと思います。
大塚 ……いろいろありましたもんねえ。
山本 サービスインしてから2年半だから……なんだかんだ、5年は費やしています。
大塚 5年って、長い時間ですよ。だって、しゃべれなかった赤ん坊が小学校にあがるくらいの年数ですもん。
山本 僕の考えでは、ゲームクリエイターとして現場でバリバリ動けるのって、50~60歳くらいまでかなと思っているんです。20代前半から55歳まで現役を続けられたとして……約30年くらいか。そのうちの5年って、けっこうな長さになりますよね。
大塚 ですねー!
山本 そういう、思い入れの強いタイトルなのでキチンと皆さんに報告しなきゃ……とツイッターでもつぶやいたんですけど、熱心なユーザーさんから寄せられた温かいコメントを読んだら……ちょっと、グッときちゃいましたね。改めて、「作ってよかったな……」って思いました。
大塚 この表現が合っているのかわからないんですけど、先日、惜しまれながらも閉園となった“としまえん”の最後の日を思い出しました。
山本 あーーーーー……!!
大塚 素朴に愛された遊園地の終わりと、同じ匂いを感じましたね。
山本 としまえん……最後、行きたかったなー!
大塚 僕も、1年前に行ったのが最後でしたわ……。
山本 ……じつは僕、数年前までは“木馬の会”に入っていたんです。
大塚 木馬の会??
山本 としまえんの、年間フリーパスです。夏にとしまえんのプールに行くのが恒例行事だったので、夏はプールでそれ以外の季節は遊園地にもよく行ってましたね~。としまえんの、ヘビーユーザーでした!
大塚 それじゃあ、さみしさもひとしおですねえ。
山本 としまえんの閉園と『クロマギ』のサービス終了の発表が、たまたま重なったんですよね。なので……『クロマギ』ユーザーの気持ちが、余計に突き刺さったんです。ぶっちゃけ、サービス終了のツイートをしたときは泣きそうでしたから。
大塚 それは刺さるなぁ……。
山本 思うように収益を上げられなかったからサービスは終了しちゃうんですけど、ユーザーから「ありがとう!」、「楽しかった!」、「最後まで遊ばせてもらいます!」なんて言ってもらえると、この仕事にはやっぱり……お金だけじゃない“やり甲斐”ってものがあるなと、改めて気づかせてもらいました。
クロマギの成果
大塚 『クロマギ』を作ったことで、具体的に得られたことって何かありますか?
山本 じつは……パズドラにすごく還元されているんです。
大塚 へーーーー! それは初めて聞く話です。
山本 パズドラをずっと運営してきましたけど、それに集中するあまり、視野が狭小化していたと思うんです。パズドラの中からの視点のみで「よくしていこう!」と動いていただけというか……。もちろん、ユーザーさんの意見を聞いたりとか、先を見据えた展開を考えたりはしていましたけど、どうしてもパズドラの中で完結しがちだったんですよね。でも『クロマギ』を作ったことで視野が広がって、それをきっかけにパズドラに実装したシステムもあるんです。
大塚 ほう!!
山本 ひとつは“モンスター交換所”です。
大塚 え!! 僕もめちゃくちゃ利用しているシステムですけど……『クロマギ』がきっかけだったんですか!?
山本 デジタルのカードゲームでは、いらないカードをべつのカードに交換する……というシステムは一般的なんですよね。というのも、そのカードを所有しているかどうかで勝負が決してしまうと、競技性がガクンと薄れてしまいますから。その点、パズドラみたいなシングルもしくは協力プレイのゲームで交換所のような仕組みを導入しているものってほとんどないんですけど、『クロマギ』をやってみて、導入することに決めたんです。
大塚 それは知りませんでした。
山本 ツイッターとかでよく、「こんだけ課金して回したのに、欲しいモンスターが出なかった!」という書き込みを見かけますけど、僕の方針としてはできることなら、欲しいと思ってくれたモンスターは手に入れてもらいたいんです。ガチャの当選確率を見てもらうと、最レアモンスターでも高い設定になっているのがわかると思いますが。それでも確率なので、出ないときは出ません。大塚さんも、よくご存知かと思いますけど。
大塚 はい。一般的なアプリと比べてパズドラの確率が非常に高いことと、それでも出ないときは出ないってこともよくわかります(苦笑)。
山本 いくら確率が高めになっていると言っても、ガチャは万能ではありません。これはさらに対策を講じないといけないな……と考えていたときに、『クロマギ』でやっていた交換所が目に止まったわけです。
大塚 おお……!
山本 とはいえ、トレーディングカードゲームのようになんでもかんでも交換しちゃう……という仕組みにはできていないんですけど、可能な限りラインナップを増やして、モンスターを手に入れやすくできたらなと考えました。
大塚 僕のような無課金プレイヤーは、とくに交換所の恩恵を受けていると思うんですよ。ガチャを回すにも限界がありますから。
山本 ああ、そうですよね。パズドラの交換所が生まれたのは、間違いなく『クロマギ』の存在があったからこそ、です。
大塚 貢献度高いな!
山本 交換所はシステム的なことですが、それだけじゃありません。一昨年、“パズドラ大感謝祭”と銘打って魔法石を100個配ったことがあるんですけど、覚えてます?
大塚 もちろん! 2018年秋に実施された“大感謝祭”ですね!
山本 魔法石を100個配ったのって、そのときが初めてだったんです。なんでコレをやろうと思ったのかというと……『クロマギ』の制作・運営を行う過程で、国内外のあらゆるアプリを片っ端から遊んだんですよ。カードゲームはもちろんですけど、ほかのジャンルのタイトルも。
大塚 あ、なんか覚えてます。その当時、山本さんがいろんなゲームを研究していたことを。
山本 そのとき、ほかのタイトルがやられているイベントなど様々な知見を得たんですけど、皆さんけっこう配っているんですよね。魔法石と同じような、課金アイテムを。
大塚 あー、はいはい! 配っていますね。
山本 それをきっかけに、魔法石100個配布のような企画を実行するようになったんです。これはもう完全に、『クロマギ』を通じて他社さんの動向を見るようになった成果ですね。
大塚 魔法石100個の効果って、目に見えて大きかったですよね。僕のまわりでも復活したユーザーが多かったですし。
山本 そうなんです! あのときすでにパズドラって7年目で、もっともプレイ人口が多かった時代と比べたらさすがにアクティブユーザーは減少傾向にあったわけです。でも、断行した魔法石100個配布の効果もあって、劇的に回帰ユーザーが増えました。我々運営が、数字を見て驚いたほどに。そういう意味では『クロマギ』は、パズドラの背中を押す役割も担ってくれたんですよね。
シナリオライターの秘密
山本 では最後に……謎に包まれていた『クロマギ』のシナリオライターについて、その詳細を話そうかなと思います。
大塚 ……話しちゃいますか!!(笑) スタッフロールには“セデル”という名前になっていますけどね。
山本 はい、明かしましょう。だって『クロマギ』のシナリオ、評判よかったですもん。
大塚 僕が言うのもナンですけど、ライザーのシナリオとか、いま読んでも「これ、いいなー!」と感心します。
山本 ああ、ライザーの話はいいですよね(笑)。……そんなシナリオや全体の世界観、あとカード1枚1枚についているフレーバーテキストと、追加されたミルのストーリーなどなど……とにかく、『クロマギ』にまつわるほぼすべてのテキストを書かれたのは……大塚角満さんというモノ書きです!!(笑)
大塚 白々しい(笑)。俺が恥ずかしいですわ!
山本 『クロマギ』のゲームシステムは先行で作っていたんですけど、その途中で世界観やストーリーを盛り込まないと……という話になり、ちょうどそのタイミングで大塚さんがモノ書きとして独立されると聞いて、「じゃあお願いします!」と(笑)。
大塚 それまでずっと、ゲームに関するニュースだとかプレイ日記、ときにはドキュメンタリーや小説みたいなものも書いて単行本にまとめたりしましたけど、この業界で書き手としてやっていく以上、いつかはゲームの世界観やシナリオはやってみたいと思っていたんですよね。ですので、渡りに船というか、本当にありがたいお話でした。
山本 やってみてどうでした?
大塚 ……フレーバーテキストを書いていて、何度暴れそうになったことか!!
山本 あははは!! 数百枚のカードすべてですもんね。最初は「レアリティーの高いカードだけフレーバーを入れますか」……って話をしていたところ、大塚さんがコモンのカードにもテキストを付けてくれて、それがまたおもしろかったので、「じゃあ全部お願いします」となったんですよね(笑)。
▲これが、カードのフレーバーテキスト。数百枚におよぶほぼすべてのカードに書き下ろしたので、サービス終了までにぜひご一読を!!
大塚 まあ、それもひっくるめて、すべてがいい経験でした。だって世界観の設定とか、ゼロからですからね。こんなに楽しい作業はほかにないですよ!
山本 出版社にいたままでは、まずできないでしょうからね。
大塚 いや本当に。自分の頭の中にあったものをアウトプットして文章にし、それにイラストレーターが絵をつけてくれて制作現場の人が動かしてくれて……って、感動以外のなにものでもなかったです。
山本 よく深夜までブレストしましたもんねー。
大塚 やりましたねー! 僕が作った設定をもとに、みんなであーだこーだとキャラ付けして、それを持ち帰って肉付けしたりとか……。いやあ改めて、すばらしい経験でした。
山本 そしてこれをきっかけに、いまではパズドラのストーリーダンジョンの設定も書いてもらっていると。
大塚 はい、ありがとうございます(笑)。
山本 これも、『クロマギ』がパズドラにもたらしてくれた成果のひとつです。
大塚 『クロマギ』を作っているさなかでしたもんね、パズドラのストーリーの話を聞いたのも。
山本 やっぱり僕としても、パズドラのストーリーをいきなりド素人に書かせるわけにはいきませんから!
大塚・山本 (爆笑)
山本 1本書いてもらって、まずは面接をして(笑)。
大塚 そこで許されて、いまにつながっています(笑)。
でも、どうですか。今後の展望として、何かお話いただけることってあります?
山本 『クロマギ』のサービスは終了してしまいますけど、たとえば可能であれば売り切りで、コンシューマー版を出してみたいな……と考えることはあります。でも、1対1の対戦ゲームは作るのも運営もたいへんなので……ちょっとお休みしようかなと(苦笑)。
大塚 ああ、そうなんですね。
山本 でも、どこかで『クロマギ』の新作なのかスピンオフなのかわかりませんけど、何かしらの可能性は探っていきたいと思っています。
大塚 対戦ゲームではなく。
山本 1対1の対戦ゲームは……やられたほうがイヤにならず、前向きにつぎの対戦に向かえるような仕組みを思いつかない限りは、すぐには作らないと思いますね。まずはパズドラの運営に集中しつつ……新作を作るなら、ひとりプレイか協力プレイのゲームかなと!
大塚 だって、そういうことを言っているうちに、もうすぐパズドラ10周年ですもんね!
山本 そうなんですよー! なので……目に見えていないところで、僕らもいろいろとやり始めています。
大塚 せっかくなので、その“いろいろ”をしゃべってくれてもいいんですよ?(ニヤリ)
山本 ……いや、その前に9周年がありますから!(笑) そこに向けての準備も進めていますから、パズドラユーザーの皆さんは、ぜひ楽しみにしていてください!!
大塚 なるほど!!
山本 ……これ以上続けるとなんでもしゃべっちゃいそうなので、このへんで!!!(笑)
大塚 はい!! ありがとうございましたー!!
“超熱血パズドラ部”に関するお知らせ
◆ファミ通Appに引っ越ししました!
このたび、さまざまな理由から、超熱血パズドラ部を当サイトから切り離し、生まれ故郷である“ファミ通App”に引っ越しさせることになりました!