『パズル&ドラゴンズ』の山本大介プロデューサーが手がける新作アプリとして、2018年4月にリリースされた対戦型カードゲーム『クロノマギア』。先日、このアプリのサービスが2020年11月30日に終了する旨が発表された。
戦略性の高いシステムはもちろん、魅力的なキャラクターと世界観、著名なイラストレーターが多数参画してのハイクオリティーなカードイラストなどがマニア人気を博したが、2年半の運営を以って惜しまれつつも幕を下ろすことになったのである。
この発表を受けて急遽、山本プロデューサーとワタクシ、大塚角満による対談形式のインタビューを実施した。なぜ熱血パズドラ部の番外編としてここに掲載するのかは……2回に分けてお見せする内容を熟読していただければわかると思う。そして……『クロマギ』について大塚角満が語る理由も、今回初めてつまびらかにしたい。
『クロマギ』ファンの方も『パズドラ』ユーザーも、ぜひじっくりと読んでください!
ひさしぶりの対談が……
大塚 いやあ、ひさしぶりですね! こうしてお話をするのも。
山本 インタビューに至っては……いつ以来ですか? 半年以上はしていないですよね?
大塚 そうですね! 新型コロナウイルスの影響が出始めて以降は、こういう機会も作れませんでしたから。ですので今回も、ソーシャルディスタンスと感染防止対策を万全にしたうえでの対談となります。
山本 記者稼業もたいへんですよね。とくに取材は。
大塚 この間もインタビューや対談はやってきましたけど、ほぼリモートなんです。その気になればどこででも、誰とでも話せるので便利なのは間違いないんですけど、やっぱりこうして直にお話するのとは違いますよね。お互いに空気感もわからないですし。
山本 ですよねー! そんな中、今回は直接お話できてよかったです。
大塚 そうですね! ではさっそく、本日の対談のメインテーマを……。
山本 はい、じつは……2018年4月から運営を行っていたアプリ『クロノマギア』のサービスが、2020年11月30日11時を以って終了することになりました。
大塚 山本さんが『パズル&ドラゴンズ』に続いて放った対戦型カードゲームアプリ、『クロマギ』が、約2年半で……。
山本 3年いかなかったですねー……。
大塚 昨今、サービスインから数ヵ月で終わってしまうアプリも増えたので、それを考えると細く長く続いていたかな……という印象もあります。
山本 はい、可能な限りサービスは続けたいと考えて、後半は運営体制を刷新して臨んでいたんです。たとえば、ランキングマッチは自動で回るようにして、少人数で対応できるように工夫を凝らしたりしていました。……でも対戦型のゲームということで、初期の段階からサーバーをガッツリと作っていたんですけど、そのコストがどうしてもかさんでしまって……。大改修すればなんとかなるかな……と思ってずっと動いていたんですけど、なかなかいい着地点を見い出すことができませんでした。
大塚 『クロマギ』がリリースされた当時はいろいろなカードゲームが発売されましたけど、残っているのはごく一部になりましたね。
山本 『ハースストーン』くらい膨大なプレイ人口がいればうまく回るようになるのかもしれませんけど、そこまで持っていくことが難しいんですよね。
大塚 対戦型のカードゲームは、人がたくさん入ってきて皆が積極的に戦ってくれないと、成り立たないからなぁ……。
山本 そもそも、負けたら悔しいというゲーム性ですからね。なのでせっかく始めても、対戦した瞬間にボコボコにやられてショックを受けて、そのままやめてしまった……というパターンがすごく多いと思うんです。パズドラみたいな協力がメインのゲームとは違って、継続率を保つのがめちゃくちゃ難しかった……。
大塚 確かになぁ……。僕も負けることが恥ずかしくて、ついつい対戦から逃げがちですもん。
山本 任天堂さんの『スプラトゥーン』とか、ウチが出した『ニンジャラ』もそうですけど、勝ち負けではなく、「今回は〇位になれればいい!」と思わせることが大事なのかもしれないですね。そのノリだと、グンと継続率は上がるんじゃないかなと思います。
大塚 わかる!! 最近『Fall Guys』に夢中なんですけど、競ってはいるけど負けることは悔しくない……というゲーム性だからこそ、ついつい何度も遊んじゃうんですよね。
山本 対戦していて、いい感じに勝ったり負けたりできる相手って、そうそういないじゃないですか? 仮にマッチングで同じくらいの強さと思える人を引き合わせられても、1手違いでも負けは負けだし、それが3回続いたら3連敗になるわけで……。でもバトルロワイヤル系だと、「最初は100位だったけど、つぎは99位だ!」という“自分の中の目標”ができれば、遊び続けられるんですよね。
大塚 しかもバトロワ系のゲームって、“紛れ”があるからなあ。偶然が重なって思いもよらない順位を獲得して歓喜したり……。でもカードゲーム……とくに『クロマギ』に関しては、ある種“詰将棋”みたいな面もありましたもんね。
山本 そうですね!! ……このへんから、ちょっと詳しく書いてもらうことになりそうです。
大塚 はい、存分に。
カードゲームの詰将棋
山本 おっしゃる通り、『クロマギ』はスタンダードパックのゲームデザインがまさしく詰将棋気味で、とにかく「先に殴ったら負け」とか「刺せるときに刺さないと確実に逆転される」とかとか、そのゲーム性を理解するのがまず難しかったんですね。TCG(トレーディングカードゲーム)なんですけど、TCGらしくない駆け引きが求められるというか……。ですので、徐々に詰将棋っぽさを減らしていって、最新の環境では誰もが気軽に遊べるカードゲームになったなと個人的には思っているんです。
大塚 あ、そうなんですね。
山本 もちろん、強い人は強いんですけど、TCG用語で言うところの“アグロ”のようなデッキも、いまの『クロマギ』にはあるんです。
大塚 相手の準備が整わないうちにガンガン殴って勝利する……という、高速デッキのことですね。
山本 はい。これは、初期にはなかったものです。
大塚 それは、あえてそういう遊びを取り入れなかったから?
山本 『クロマギ』って、カード20枚でデッキを組むんです。僕がよかれと思って設定したんですけどね。本当は15枚くらいまで絞って、誰でも簡単にデッキを組めるようにしたいと考えていたんですが……じつはこれが罠で(苦笑)。
大塚 罠?
山本 デッキを構成する枚数が少ないと、おのずと1枚1枚の重要性が増します。それを中和する意味もあって、この手のカードゲームはデッキの枚数が30枚とか、場合によっては60枚のものとかもあるんですね。その中で、同じカードを3枚とか、『マジック:ザ・ギャザリング』だと4枚まで入れて編成をするんですけど、1枚しか入れないカードって少ないんですよ。
大塚 ふむふむ。
山本 『クロマギ』は20枚で組む以上、同じカードは最大2枚までが限界で、1枚しか入れないものも多いです。そこで何が起こるかというと……デッキを組むのが、非常に難しくなるんですよね……。
大塚 あー……!
山本 強いカードをドカドカ入れればいい……っていう考え方が、『クロマギ』では通用しないんです。さらに、先ほどのアグロみたいに、引いたカードをバンバン使って殴っていっても、どこかでカウンターを喰らって場のカードが全滅しちゃうと、デッキに同じカードはもうないから、再構築が実質不可能になります。
大塚 取り返しがつかないんですね。
山本 詰将棋ってのは言い得て妙で、1ターン目から数手先を読めていないと、場にカードを出すこともできないんですよ。
大塚 なるほど……。サービス開始当初は、そこまでカチカチなゲーム性だったんですね。
山本 はい。よかれと思ってやっていたんですけど、気が付けばよりマニアックな方向に向けてチューニングしちゃっていたんだな……と思います。
大塚 でも、そういったマニアな人たちは、これを求めていたわけですよね。
山本 まさにその通りで、ピタっとハマった人はひたすら遊び続けてくれました。
大塚 囲碁とか将棋とか麻雀とか、そういう戦略的なゲームが好きな人はドンピシャだったろうなあ。でもそこから調整をくり返して、ガンガン殴れるゲーム性も許容していったと。
山本 はい。初期のころにはなかった“トークン”という概念を取り入れました。カードゲームにはよくある要素なんですけど、たとえば“A”というカードを出したら、新たに“A+”のようなカードを生成してくれる、という。ですので組み方によっては20枚ではなく、結果的に30枚とか40枚で編成しているのと同じようなデッキになったりするんです。
大塚 ボードゲームとかでも、よく使われる要素ですね。
山本 これですごく遊びやすくなったんですけど……いかんせん、導入が遅かったですね……。もしも初期から入れ込むことができていたら、自由な遊びと詰将棋の中間くらいの匙加減でプレイしてもらえたと思うのですが。
大塚 うんうん……。
山本 このトークンともうひとつ、大きな反省点があるんです。
大塚 はい、聞かせてください。
反省点と“今後”
山本 このプロジェクトはもともと、「〇年×月までに出す」というスケジュールは切らずにスタートさせたものなんです。ゲームとしておもしろくなるまで煮詰めに煮詰めて、ひたすら作り続けていた感じで。
大塚 はい。
山本 ライセンス表記を見ていただくとわかるんですが、制作チームはガンホーだけじゃなく、他の会社さんやフリーのクリエイターさんの集合体なんですね。「おもしろいものを作りましょう!」という声掛けに集まってくれた皆さんで取り組んでいたものなので。
大塚 座組がそもそも違うんですね。
山本 ……まあ、そんなことを聞いてる大塚さんも、よくご存知だと思いますけど(笑)。
大塚 ここは、いちジャーナリストとしてお聞きしているので!(笑) その話は、後半にしましょう。
山本 そんな感じで作っていて、ようやくざっくりとしたスケジュールを組もうかな……と考え始めたころに、おかげさまでメディアの方が注目してくれまして。中でも週刊ファミ通さんには「表紙でやりましょう!」と言ってもらえました。
大塚 はい、覚えています。
山本 スマホ用の小さな新タイトルがファミ通の表紙になるなんて、まずないじゃないですか。そこで「これはがんばって作って、リリースしないと!」ってことになったんですけど……。
大塚 ……けど?
山本 スケジュールを組んだところ、先ほどのトークンや新パックの追加カードなど、事前に用意しておきたかったものの開発を後回しにする必要が出てきました。結果、アップデート用の追加カードの準備と日々の運営を同時並行しないといけなくなり、「トークンは1日も早く導入しないと!」ってなっても動き出すことができなかったんです。手が回らなくて。
大塚 同じタイミングで、週刊少年サンデーでマンガの連載も始まりましたもんね。
山本 あ、そうです! マンガも大きかったですね! もう、考えられないくらいありがたいお話でしたけど。
大塚 スマホのブランニュータイトルでいきなりサンデーでマンガとか……ありえないもんなあ。メディア側もかなり前倒しで作業をしなきゃいけないから、どちらもスケジュールを切らないと始まらないですしね。
山本 ファミ通の方々もサンデーの担当の方もとにかくゲームが好きで、『クロマギ』を初めて触ったときに「おもしろい!」って思ってくれたんですよね。それをきっかけに、これ以上ないくらい推してくださったんですけど……その期待に、お応えすることができませんでした。それは、大きな大きな反省点ですね。
大塚 それを考えると、対戦カードゲームは数回のアップデート分は作った上でリリースしたほうがいいわけですね。
山本 はい。「この環境だと流行らない」と判断したら、すぐに対応したアップデートができるくらい余裕を持った運営が理想なんですよね。
大塚 なるほど。でも山本さんらしく、うまくパズドラとコラボしてやられていたイメージがあります。
山本 そうですね。パズドラのイラスト資産は潤沢にあるので、それを『クロマギ』用に改良して“パズドラパック”として追加したりはしてきました。あと、パズドラの人気モンスターである“ミル”のストーリーを新たに書き下ろしてもらって導入したり……。……って、このへんに関しては、大塚さんはよくご存知かと思いますけど。
大塚 ええ、そりゃあもう。
山本 このパズドラとの連携は多くのプレイヤーに喜んでいただけたんですけど、いかんせん、これをサービスイン当初からできたわけではないので。
大塚 それでも、『クロマギ』のイラストの評価はめちゃくちゃ高いですよね。実際、僕も最初から見ていますけど、参加されているイラストレーターもビッグネームばかりだし、クオリティーもすばらしいし。
山本 そうなんです! ここは反省ではなく、やりきった部分なんですけど、『クロマギ』はイラストのテイストからして“濃かった”ですよね。
大塚 このまま見られなくなるのは、あまりにも惜しすぎますよ。
山本 ……ここできっと、大塚さんは記事の中に“『クロマギ』のイラスト、今後はどうなる?”とか入れるんでしょうね(笑)。
大塚 では、入れますか(笑)。
『クロマギ』のイラスト、今後は?
大塚 濃いゲームだけに、熱心なプレイヤーはたくさんついていたんですよね。イラストのファンももちろんですけど。
山本 おかげさまで、サービス終了を発表してから「好きだったのに残念」、「イラストが見られなくなるのはさみしい」なんていう声をたくさんいただいています。本当に、ありがとうございます。ゲーム自体は、11月30日を以てプレイできなくなってしまうんですが、『クロノマギア』の存在そのものが完全に消えてしまうわけではありません。
大塚 ほう! それは興味深い!
山本 パズドラでは定期的に“ガンホーコラボ”という、自社コンテンツとのコラボイベントを行っています。そこに、『クロマギ』のキャラも登場しているんです。
大塚 出てますねー!
山本 サービス終了に合わせてガンホーコラボにも登場しなくなるのでは……という心配の声も寄せられているんですけど、そんなことはありません。今後もガンホーコラボに『クロマギ』のキャラは出続けます!
大塚 すばらしい! 『クロマギ』のキャラって特徴的で強いのが多いので、パズドラユーザーには間違いなく朗報ですよ!
山本 そうですねー! いままでのキャラはもちろん継続ですけど、まだ登場していない“能力者”と呼ばれる『クロマギ』の主人公もいますし、印象的なキャラクターもたくさんいるので、そのへんも含めて新キャラとして出していく予定です。
▲ちなみに“ルルナ”というネコ娘の名前の由来は、大塚角満の愛猫、ノルウェージャンフォレストキャットの“ルナ”だったりする。
大塚 いいですね!!
山本 サービス終了になったゲームのキャラも、パズドラの友情ガチャから出てきたりするじゃないですか? 『クロマギ』も同様にガンホーコラボの中で生き続けるので、サービスは終わってしまいますけど、やっぱり作ってよかったなと思います。
大塚 でも……生み出したものが終わってしまうことに対する、なんとも言えない感情は消えないですよね。
山本 そうだ、それを最初に言おうと思っていたんだ……。
大塚 はい、聞かせてください。
山本 やっぱり……ものすごくしんどいです。作った人間としては。
大塚 わかります、すごく。
山本 パズドラユーザーからは「ほかのゲームを作っていないでパズドラに集中しろ」なんてことも言われましたけど、僕らはそれぞれのタイトルに真剣に向き合って、「1日でも長くサービスを続けたい!」と思いながら運営をしてきたわけです。ですので非常につらいんですが……多少でも、パズドラの中で息づいてくれているというだけでも、救われた気持ちになります。
大塚 ……サービスが終了するゲームの作り手に、ここまで話をしてもらう機会ってなかなかないです。
山本 ああ、そうかもしれませんね。ふつうは、静かにフェードアウトしていくものですから。
大塚 ですよねー。
山本 楽しいことばかりじゃなく、辛かったり、大変なこともあるんですが、「少しでもいいものを作って、楽しんでもらいたい!」という思いだけでやってきたんですよね。サービスの初期なんてトラブルが付き物ですから、ずっと生きた心地もしなくて……。ある意味、命を削って運営していたような感じで。それが終わってしまうというのは……ちょっと言葉にできない感情になります。
大塚 そこが、売り切りのゲームと違うところですよね。
山本 ガンホーに入ってからずっとパズドラをやっていたので、サービス終了になってしまうことって本当に久しぶりなんですけど……この、うまくいかなかったら閉じるという経験には慣れたくないです。慣れたくないからこそ、今後のパズドラの運営をさらにがんばっていこうと気合が入りますし、新作を作ったらきっちりと、『クロマギ』で得た経験を活かそうと思います。
大塚 新作も……そりゃ作りますよね!
山本 はい、それは……誰になんと言われようとも(笑)。ゲームクリエイターですから!
以下、第2回目に続く!!
“超熱血パズドラ部”に関するお知らせ
◆ファミ通Appに引っ越ししました!
このたび、さまざまな理由から、超熱血パズドラ部を当サイトから切り離し、生まれ故郷である“ファミ通App”に引っ越しさせることになりました!